『花橘亭』「平安時代好きの京都旅行記」秋の京都風俗博物館




風俗博物館

展示期間:2005年 10月1日(火)〜11月30日(水)
文学作品にみる名場面2
『堤中納言物語』作者未詳 「虫めずる姫君」


虫めずる姫君


虫めづる姫君  練色の、綾の袿ひとかさね、はたおりめの小袿ひとかさね、白き袴を好みて着たまへり。

(姫君は)見ばえのしない薄黄色の、綾織の袿一重、その上にこおろぎの模様の小袿を一重を重ね着て、白い袴を好んで着用していらっしゃる。)

※通常、袴は緋色か濃色のものをはきます。
扇  白き扇の、墨黒に真名の手習ひしたるをさし出でて、「これに(毛虫を)拾ひ入れよ」とのたまへば、童べ、取り入る。

(姫君は白地の扇に、墨くろぐろと漢字の手習いをしたのを差し出して、「これに(毛虫を)拾って入れておくれ」とおっしゃるので、童が拾い入れる。)



 ちなみに、この童は螻蛄男(けらを)と呼ばれています。

 姫君が外から丸見えであることを案じて、大輔(たゆう)の君という女房が、「内へお入りください」と言っているのが聞こえてきそうな場面です。
虫めずる姫君と童


★ 虫めずる姫君のポリシー
 「人はすべて、つくろふところあるはわろし」
 (「人間たるもの、すべて自然のままがよいのだ」)


 姫君は、眉毛も抜かず毛深い眉のまま。お化粧はいっさいせず、お歯黒をつけることもしませんでしたので、笑うと真珠のように白い歯が現れるのでした。(当時の女性は化粧をし、お歯黒を塗るのが常識でした。)

 また、姫君は物事の本質を知ることが大切だという信念にもとづいて毛虫の変成する様を興味深く観察していました。



緑字の原文・訳は、<「新編日本古典文学全集17 落窪物語 堤中納言物語」小学館発行>より引用。



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